連日、国や自治体から注意が呼びかけられている、特定外来生物のヒアリ。
刺されると火傷(やけど)のような痛みを伴う強い毒を持っていて、海外では死亡例も報告されています。
このヒアリは2017年6月以降、日本全国の港で確認されましたが、内陸でも2017年7月6日に愛知県春日井市の倉庫で発見されています。
こうした事態を受けて、環境省などは全国68の港で、ヒアリを駆除する毒入りの餌を大規模に設置するなどの対策を開始しました。
繁殖力の高いヒアリが日本中に拡散するのも時間の問題かもしれません。
私たちにできるヒアリの駆除方法と、もし万が一刺されてしまった場合の対処法をまとめました。
ヒアリの駆除対策
熱湯をかける(即効性〇、実効性×)
熱湯を巣穴とその周辺に注ぎます。熱湯が直接かかる範囲のヒアリは死にますが、アリ塚の深部にいるヒアリを駆除することはできません。
液剤をまく(即効性〇、実効性△)
巣に液剤を直接散布します。
液剤に接触したヒアリはもちろん、液剤に接触したヒアリが巣内で他のヒアリに触れても駆除効果があります。
ただし、他の昆虫類にも影響を及ぼします。
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ベイト剤を設置する(即効性△、実効性◎)
顆粒状、ゼリー状のベイト剤(毒餌)をヒアリの行列内や巣の周辺に設置します。
薬剤が持ち去られ減るたびに追加・交換をします。
働きアリが駆除剤を巣に持ち帰ることにより、巣の内部まで駆除することが可能です。
時間は要するものの確実に駆除ができます。
参照「ストップザヒアリ」環境省
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ヒアリに刺された場合の症状
人間が刺されると、火がついたように痛み、30分ほどすると指された場所が白く膿みます。
アレルギー性のショックで昏睡状態に陥ることもあり、米国ではこれまでに多くの死者が出ています。
刺されたら医療機関で診察を受けてください。
症状が軽度の場合
刺された瞬間は熱いと感じるような、激しい痛みが走ります。
やがて刺された痕(あと)が痒(かゆ)くなります。10時間ほど経つと膿(うみ)ができます。
症状が中度の場合(じんましん)
刺されてから数分~数十分後には刺された部分を中心に腫れが広がり、部分的、または全身にかゆみをともなう発疹(じんましん)が現れることがあります。
症状が重度の場合(呼吸困難、血圧低下、意識障害)
刺されてから数分~数十分の間に息苦しさ、声がれ、激しい動悸やめまいなどを起こすことがあり、進行すると意識を失うこともあります。
これらの症状が出た場合には重度の即時型のアレルギー反応「アナフィラキシー」である可能性が高く、処置が遅れると生命の危険を伴います。
ヒアリの毒はハチ毒との共通の成分を持つので、ハチ毒アレルギーを持つ方は特に注意が必要です。
参照「ストップザヒアリ」環境省
ヒアリに刺された場合の対処法
刺された直後の対処
20~30分程度は安静にし、体調の変化がないか注意してください。
軽度の症状のみで悪化する様子がなければ、ゆっくりと病院を受診しても大丈夫です。
容体が急変したとき
症状は急速に進むので、とにかく一番近い病院を受診します。
アリに刺されたこと、アナフィラキシーの可能性があることを伝えすぐに治療してもらいます。
もしもの場合に備えて
特にアナフィラキシーの危険がある方は、前もって医師に相談し、アレルギー反応を緩和するためのアドレナリン自己注入キット「エピペン」を用意することができます。
重度の症状が出始めた時点で使用すると効果的です。
また、軽・中度の症状に効果的な抗ヒスタミン剤の内服薬を用意しておくこともできます。
実際、ヒアリに噛まれて死亡に至る確率は0.001%と非常に低いそうです。
もし刺された場合も焦ることなく、落ち着いた対応をしましょう。
2005年にアメリカで放送されたCSI:科学捜査班 シーズン5の24・25話では地中に埋められたニックがヒアリに襲われるシーンがあります。
刺された箇所が赤く腫れ、白く膿んでいく様子などヒアリに刺された際の症状が再現されています。
以前見た時はアリに襲われるというのがピンときませんでしたが、今見ると怖いですね。
ヒアリの特徴
[形態・大きさや特徴]
体色は主に赤褐色、腹部は濃く黒っぽい赤色です。
体長は2.5~6mmと大きさにばらつきがあります。
ヒアリ(fire ant)は、南米中部原産のアリですが、現在では米国をはじめ環太平洋諸国に定着しています。
腹部に毒針があり、刺されるとアルカロイド系の強い毒による痛みやかゆみ、発熱、じんましん、激しい動悸等の症状を引き起こします。
人体へ被害を及ぼすことから特定外来生物に指定されています。
土でアリ塚を作って住むことも特徴です。
アリ塚は農耕地や公園など、開放的な草地・裸地に多く見られ、直径25cmから60cm、高さ15cmから50cm程度のドーム状になります。
これが日本在来種のアリと大きく異なる点で、判別しやすい特徴といえます。
[生態・生息地など]
食性は雑食性で、節足動物、トカゲなどの小型脊椎動物、樹液、花蜜、種子など。
ヒアリはきわめて攻撃的で、自分より体が大きい相手でも集団で襲いかかり、補食することで知られています。
繁殖能力
ヒアリは繁殖力が強く、一匹の女王アリが1日1000個以上の卵を産むといいます。
また、一つの巣に複数の女王アリがいるため、短期間に爆発的に数が増えます。
この点も一般的なアリと大きく異なる特徴です。
(同じく南米原産のアルゼンチンアリも同様の特徴を持ちます。)
一つの巣には働きアリが20万匹住むといわれます。
中国のヒアリ事情
日本で発見されたヒアリの多くは、中国から来たコンテナから発見されています。
今年5月に神戸港で初めて発見されたヒアリは、広州市南沙港の貨物船のコンテナの中から発見されました。
中国でヒアリが初めて発見されたのは2004年。
以来、中国政府は水際対策を強化し、地域によっては年間320億円の費用をかけ対策しましたが失敗。
現在では、生息域は現在11の省・区まで拡大しています。
米やトウモロコシ、果物などの苗木や種を食い荒らし、農作物にも被害が出ています。
中国は今ではヒアリの根絶をあきらめ、人に被害を出さない対策にシフトしているそうです。
ヒアリ研究の先進企業「フマキラー」
殺虫剤大手のフマキラーでは、毒を持たない特定外来生物「アルゼンチンアリ」を使って、ヒアリの駆除対策を研究しています。
このアルゼンチンアリを日本で初めて発見したのはフマキラーの研究員です。
アルゼンチンアリとは
アルゼンチンアリは、ヒアリと同じく一つの巣に複数の女王アリが生息します。
1993年に初めて日本で発見されて以降、高い繁殖力で各地で生息するようになってしまいました。
フマキラーはアルゼンチンアリを巣ごと駆除できる毒餌などを販売してきましたが、
アルゼンチンアリと同様の高い繁殖力を持つヒアリに対しても、フマキラーの駆除剤が有効だといいます。
現在、フマキラーでは、海外のヒアリを使って駆除剤の効果を検証しています。
アリ用エアゾール | 「アリフマキラー」「アリカダン」 |
アリ用粉剤 | 「アリ・ムカデ粉剤」「アルゼンチンアリ殺虫&侵入防止粉剤」「アリカダン粉剤」 |
アリ用液剤 | 「巣のアリ退治 液剤」「アルゼンチンアリ巣ごと退治液剤」「カダン アリ全滅シャワー液」 |
アリ用ベイト剤 | 「ウルトラ巣ごと退治」「アルゼンチンアリ ウルトラ巣ごと退治」 |
こうした経験が買われて、環境省などは全国68港でのヒアリ駆除計画でフマキラーに協力要請をしたそうです。
海外のヒアリ対策
ヒアリは現在14の国と地域で確認されています。
(参照:環境省「ストップ・ザ・ヒアリ」)
これまで世界中で様々なヒアリ対策の取り組みがされてきました。
米国では
ゾンビバエ(ノミバエ)という蠅の特性を使い、ヒアリの体内に無数の卵を寄生させて、ヒアリを体の中から滅ぼす対策をとりましたが、完全に駆除することはできませんでした。
ニュージーランドでは
ニュージーランドは世界で唯一駆除に成功した国です。
ヒアリの巣が見つかると、半径5kmに落とし穴や粘着シート、毒餌を張り巡らせて、その上で巣に殺虫剤を吹きかけて徹底的に駆除したそうです。
ヒアリが最初の巣を作った段階で対応できたことが、駆除に成功した理由とのこと。
まとめ
以上、ヒアリの駆除方法と、万が一刺されてしまった場合の対処方法を紹介しました。
資料
- 東京都環境局「気を付けて!危険な外来生物」ホームページ(ヒアリ)
- 環境省「日本の外来種対策」ホームページ 特定外来生物の解説(ヒアリ)
- 環境省「ヒアリの簡易的な見分け方(暫定版)」
- 環境省「ストップ・ザ・ヒアリ」
外来生物法とは
2005年6月に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」が施行されました。
この法律は、生態系、人の生命、身体、農林水産業に係る被害を及ぼし、または及ぼすおそれがあるものとして「特定外来生物」を指定し、取り扱いを規制しています。
現在、アリはヒアリの他、アルゼンチンアリ、アカカミアリ、コカミアリが特定外来生物になっています。
これらの生物を持ち運んだり、飼育したりすることは禁止されています。
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